薬物依存症とは

薬物依存症とは
薬物依存症とは、薬物(覚せい剤、大麻、向精神薬、咳止め薬、ガス、アルコールなど)の使用を繰り返すことで、薬物が欲しいという強い欲求(渇望)がわきやすくなり、その渇望をコントロールできずに薬物を使ってしまう状態をいいます。薬物依存ともいいます。やめ続けることが難しい病気です。

古くは薬物中毒と呼ばれてきましたが、それは薬物依存という概念が確立されていなかった時代のことで、現在は薬物乱用、薬物依存、薬物中毒という3つの概念を分けて考えることが大切です。

原因・発症の要因
今日、この薬物依存の原因として、脳内の神経系の異常が明らかになっています。

脳のどの部分に作用するかは、薬物によって異なります。しかし、どの薬物であっても、依存性のある薬物というからには、中脳の腹側被蓋野から側坐核に至る脳内報酬系と呼ばれるA10神経系に共通して異常が起きていることが明らかになっています。
このA10神経系で最も主要な役割を果たす神経伝達物質がドパミンです。

薬物乱用
薬物乱用とは、ルールに反した「行い」に対する言葉で、社会規範から逸脱した目的や方法で、薬物を自ら使用することをいいます。
覚せい剤、麻薬(コカイン、あへん・ヘロイン、LSD、MDMAなど)は、製造、所持、売買のみならず、自己使用そのものが法律によって禁止されています。
したがって、それらを1回使っただけでも乱用です。
未成年者の飲酒・喫煙も法により禁じられているため、1回の飲酒・喫煙でも乱用です。

有機溶剤(シンナー、接着剤など)は、それぞれの用途のために販売されているのであり、吸引は目的の逸脱で、1回の吸引でも乱用です。
また、1回に1錠飲むように指示された睡眠薬、鎮痛薬などの医薬品を、「早く治りたい」と考え、一度に複数錠飲む行為は、治療の為という目的は妥当ですが、方法的には指示に対する違反であり、乱用です。
もちろん、医薬品を「遊び」目的で使うことは、目的の逸脱であり、乱用です。

ところで、わが国には成人の飲酒に対する規制はありません。しかし、朝から飲酒して社会生活に影響するようでは妥当な飲み方とはいえず、やはり乱用です。
飲酒については、イスラム文化圏では、成人といえどもそれ自体を禁じている国が少なくありません。
この事実は、薬物乱用という概念が、社会規範からの逸脱という尺度で評価した用語であり、逆に医学用語としての使用には難があることを意味しています。
そのため世界保健機関(World Health Organization:WHO)の国際疾病分類第10版(ICD-10)では、文化的・社会的価値基準を含んだ薬物乱用という用語を廃止し、精神的・身体的意味での有害な使用パターンに対しては「有害な使用」という用語を使うことにしました。

つまり、乱用という概念は、社会生活上のルール違反という尺度で評価した用語であり、あくまでも「行い」に対する用語であると考えるべきでしょう。

薬物依存
薬物の乱用をくりかえすと、薬物依存という「状態」におちいります。
薬物依存という状態は、WHOにより世界共通概念として定義づけられています。簡単にいえば、薬物の乱用の繰り返しの結果として生じた脳の慢性的な異常状態であり、その薬物の使用をやめようと思っても、渇望を自己コントロールできずに薬物を乱用してしまう状態のことです。
この薬物依存は、便宜上、身体依存と精神依存の二つに分けて考えると理解しやすくなります。

身体依存
身体依存は、アルコールを例にとると理解しやすいでしょう。長年大量のアルコールを飲み続けた人は、いつの間にか、体の中にはアルコールがいつもあるものだという体に変化します。そのような人が飲酒のできない状況下に置かれた場合、体は異変を起こします。手の震えや幻覚・意識障害などの「振戦せん妄」と呼ばれる離脱症状(従来は禁断症状といいました)を呈することがあります。このような状態になる場合、その人は身体依存になっているのです。
身体依存になってしまうと、離脱症状の苦痛を避けるために、何としてでもアルコールを入手しようとして、家族の目を盗んで自動販売機に向かったりといった、アルコールを手に入れるための行動を起こします。このような行動を薬物探索行動といいます。そしてアルコールを入手し、飲酒が繰り返されることになります。

精神依存
精神依存とは、渇望に抗しきれず、自制が働かなくなった脳の障害(状態)です。精神依存だけでは、その薬物が切れても、身体的な不調は原則的には出ません。
ニコチンには精神依存を引き起こす強い作用がありますが、身体依存を引き起こす作用は実際上はないと考えられています。喫煙者はタバコが切れると、時刻、天候にかかわらず、労をいとわず買いに行きます(薬物探索行動)。職場では、喫煙者同士で「1本もらえる?」と供給し合います。この「1本もらえる?」という言葉は、紛れもない薬物探索行動です。 薬物探索行動は、ニコチンの場合には「1本もらえる?」で済みますが、覚せい剤の場合には、入手するためには「まずはお金だ!」ということになります。結局、あり金を使い果たし、その後は家族、友人に無心し、時にはお金欲しさの犯罪にまで及ぶことまであるわけです。

薬物には、精神依存だけを引き起こす薬物と、精神依存と身体依存の両方を引き起こす薬物の2種類があります。アルコール、モルヒネ、ヘロインは、精神依存のみならず身体依存も引き起こします。ところが、ニコチン、覚せい剤、コカインは強い精神依存を引き起こしますが、身体依存は引き起こしません。したがって、薬物依存の中心は精神依存であるということになります。